今回のテーマは、民法の「売買契約(手付)」である。
それでは、「マンション管理士試験」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
令和5年度 マンション管理士試験 〔問14〕
〔問 14〕 Aが所有し、居住する甲マンションの101 号室をBに3,000 万円で売り渡す旨の契約を締結し、Bから手付金として300 万円を受領した場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。ただし、AB間の売買契約には、手付に関する特約はないものとする。
1 Aは、Bが履行の着手をする前に、Bに600 万円を現実に提供すれば、Bがこれを受領しなくとも売買契約の解除をすることができる。
2 Bは、B自身が履行の着手をしても、Aが履行の着手をしなければ、手付金300 万円を放棄して売買契約の解除をすることができる。
3 Aは、Bの債務不履行により売買契約を解除したときは、Bに手付金300 万円を返還することなく、Bの債務不履行により生じた損害全額の賠償を請求することができる。
4 Aが履行の着手をする前に、Bが手付金300 万円を放棄して売買契約の解除をしたときは、Aは、売買契約の解除によって300 万円を超える損害が生じても、Bに対して損害賠償の請求はできない。
令和5年度 マンション管理士試験
1 正しい。
売主が解除する場合、買主に対し、手付の「倍額を現実に提供」する必要がある。(民法557条1項)
したがって、売主が、手付の倍額を現実に提供していれば、買主が受領するかまでは必要ではない。
2 正しい。
民法557条1項は、「相手方」が契約の履行に着手した後は解除できないとされているため、解除する者が自ら契約の履行に着手した後でも、その相手方が契約の履行に着手していなければ、相手方の契約の履行に対する期待を裏切ることにならない以上、解除することが可能である。
3 誤り。
手付が交付されている場合であっても、債務不履行を理由とする解除がされたときは、その手付が損害賠償の予定としての手付でない限り、損害賠償を請求することができる。
ただし、当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。(545条1項)
したがって、Aは、Bの債務不履行により売買契約を解除したときは、Bに手付金300 万円を返還する必要がある。
4 正しい。
解約手付による解除をした場合、「解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない」とする民法545条4項の規定は適用されない。(557条2項)
したがって、Aは、売買契約の解除によって300 万円を超える損害が生じても、Bに対して損害賠償の請求はできない。