今回のテーマは、民法の「即時取得」である。
それでは、「マンション管理士試験」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
令和5年度 マンション管理士試験 〔問12〕
〔問 12〕 Aは、甲マンションの508 号室を所有しているが、同室及び同室内の壁に飾ってあった風景画(この問いにおいて「絵画」という。)をBに賃貸した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1 Bが死亡し、その後Bを単独で相続した子Cが、絵画をBの所有物であり相続財産に属するものであると過失なく信じて、現実に占有していたときは、Cは、即時取得により所有権を取得するため、AがCに絵画の返還を請求しても認められない。
2 Bが自らの所有物であると称してDに絵画を売却し、Dは、Bの所有物であると過失なく信じていた場合において、Bが絵画を以後Dのために占有する意思を表示してその現実の占有を継続したときは、Dは、即時取得により所有権を取得するため、AがDに絵画の返還を請求しても認められない。
3 Bが自らの所有物であると称してDに絵画を売却した場合において、絵画の引渡しを受けた当時、Bの所有物であると過失なく信じていたことをD自身で立証しない限り、Dは、即時取得により所有権を取得しないため、AがDに絵画の返還を請求すれば認められる。
4 無職のEがBが不在の間に508 号室に侵入して絵画を盗み、Fに売却したところ、FがEの所有物であると過失なく信じていた場合において、絵画の占有が現実にEからFに移転されたときであっても、Aは、盗難の時から2年以内にFに絵画の返還を請求すれば認められる。
令和5年度 マンション管理士試験
1 誤り。
即時取得では、第三者が、取引行為によって動産の上に権利関係を築いたことが求められる。
したがって、相続によって相続財産中にある他人の動産を包括承継した場合には即時取得は成立しない。
本肢の場合、即時取得は成立しないので、AがCに絵画の返還を請求すると認められる。
(民法192条)
2 誤り。
本肢において、Bが、売却後もその絵画を以後Dのために占有する意思を表示してその現実の占有を継続しているのは、占有改定(183条)の状態であり、この場合、即時取得は成立しない。(判例・通説)
したがって、AのDに対する絵画の返還請求は認められる。
3 誤り。
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定される。(186条1項)
さらに、占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定される(188条)ので、前主の占有に対する第三者の信頼について間接的に無過失が推定される。(最判昭和41・6・9民集20巻5号1011頁)
したがって、即時取得の成立を否定する当事者の側に第三者の悪意または有過失に関する立証責任がある。
Dは,絵画の引渡しを受けた当時、Bの所有物であると過失なく信じていたことをD自身で立証する必要はなく、Dは、即時取得により所有権を取得できる。
4 正しい。
即時取得が成立する場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。(193条)
したがって、Aは、盗難の時から2年以内にFに絵画の返還を請求すれば認められる。
なお、占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。(194条)