今回のテーマは、「表見代理の成立要件」である。
それでは、宅地建物取引士資格試験で出題された民法の過去問にチャレンジしてみよう。
【問 5】AがBの代理人として行った行為に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。なお、いずれの行為もBの追認はないものとし、令和3年7月1日以降になされたものとする。
1 AがBの代理人として第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合、相手方Ⅽがその目的を知っていたとしても、AC間の法律行為の効果はBに帰属する。
2 BがAに代理権を与えていないにもかかわらず代理権を与えた旨をCに表示し、Aが当該代理権の範囲内の行為をした場合、CがAに代理権がないことを知っていたとしても、Bはその責任を負わなければならない。
3 AがBから何ら代理権を与えられていないにもかかわらずBの代理人と詐称してCとの間で法律行為をし、CがAにBの代理権があると信じた場合であっても、原則としてその法律行為の効果はBに帰属しない。
4 BがAに与えた代理権が消滅した後にAが行った代理権の範囲内の行為について、相手方Cが過失によって代理権消滅の事実を知らなかった場合でも、Bはその責任を負わなければならない。
宅地建物取引士資格試験 令和3年度(12月19日)問題
正解:3
代理権の濫用
1 代理権の濫用についての肢である。
(代理権の濫用)
第百七条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
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相手方が、代理人の「自己又は第三者の利益を図る目的」を知り、又は知ることができたときは、無権代理行為とみなす。
無権代理とは
(無権代理)
第百十三条 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。
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無権代理行為の効果は、本人に帰属しないのが原則である。もっとも、本人が無権代理行為を追認した場合や、表見代理が成立する場合は、その行為の効果は本人に帰属する。
表見代理とは
表見代理とは、無権代理行為が行われた場合において、その行為の相手方の信頼を保護し、取引の安全を図るために、例外的に本人への効果帰属を認める制度である。
そして、民法は表見代理を次の三つの類型に大別している。
- 代理権授与の表示による表見代理(109条)
- 権限外の行為の表見代理(110条)
- 代理権消滅後の表見代理(112条)
(代理権授与の表示による表見代理等)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
(権限外の行為の表見代理)
第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
(代理権消滅後の表見代理等)
第百十二条 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
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2 Aに代理権授与したと嘘をついたBについて、相手方Cがその事実を知っていたのでBは責任を負う必要はない。(109条1項)
3 AはBから代理権を与えられていないため無権代理行為となる。設問によってBの追認もないので、本肢の法律効果がBに帰属することはない。(113条1項)
4 代理権の消滅後に、元代理人が代理権の範囲内の行為をした場合には、相手方は善意・無過失が要件となる。本肢では、相手方Cには過失があるのでBは責任を負う必要はない。(112条1項ただし書)
(参考文献)C-Book 民法I〈総則〉 改訂新版(東京リーガルマインド)