今回のテーマは、「不動産物権変動」である。
それでは、宅地建物取引士資格試験で出題された民法の過去問にチャレンジしてみよう。
【問 6】 不動産に関する物権変動の対抗要件に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 不動産の所有権がAからB、BからC、CからDと転々譲渡された場合、Aは、Dと対抗関係にある第三者に該当する。
2 土地の賃借人として当該土地上に登記ある建物を所有する者は、当該土地の所有権を新たに取得した者と対抗関係にある第三者に該当する。
3 第三者のなした登記後に時効が完成して不動産の所有権を取得した者は、当該第三者に対して、登記を備えなくても、時効取得をもって対抗することができる。
4 共同相続財産につき、相続人の一人から相続財産に属する不動産につき所有権の全部の譲渡を受けて移転登記を備えた第三者に対して、他の共同相続人は、自己の持分を登記なくして対抗することができる。
宅地建物取引士資格試験 令和3年度(12月19日)問題
正解:1
第三者とは
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
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「第三者」とは、一般には、当事者及びその包括承継人(相続人など)以外のすべての者を意味する。他方で、民法94条2項(虚偽表示)、95条4項(錯誤)、96条3項(詐欺又は強迫)においては、それぞれ範囲が限定されている。177条の「第三者」についても、意味が限定されるかが問題となる。この点、判例・多数説は「制限説」をとる。すなわち、「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。
「177条」の「第三者」まとめ
登記なくして対抗しえない「第三者」
- 所有者取得者(二重譲渡の場合、時効完成後の第三者など)
- 他物権取得者(抵当権取得者など)
- 差押債権者・仮差押債権者
- 賃借人(605条の2第3項)、最判昭49.3.19
本件宅地の賃借人としてその賃借地上に登記ある建物を所有する上告人は本件宅地の所有権の得喪につき利害関係を有する第三者であるから、民法一七七条の規定上、被上告人としては上告人に対し本件宅地の所有権の移転につきその登記を経由しなければこれを上告人に対抗することができず、したがつてまた、賃貸人たる地位を主張することができないものと解するのが、相当である。
最高裁判所判例集 昭和49年3月19日
(借地権の対抗力)
第十条 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
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- 共有者
- 背信的悪意者からの転得者
登記なくして対抗しうる者(「第三者」に当たらない者)
- 無権利者
- 不法行為者・不法占拠者
- 輾転(てんてん)移転した場合の前々主など
- 一般債権者
- 背信的悪意者
1 Aは、Dと対抗関係にある第三者に該当しない。(輾転移転した場合)
2 正しい。本肢の賃借人は、登記なくして対抗しえない「第三者」に該当する。
取得時効と登記
取得時効については、下記の条文をご参照いただきたい。
(所有権の取得時効)
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
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時効完成前の第三者との関係
時効取得者は、時効完成前の第三者に対して、登記なくして取得時効を対抗することができる。(最判昭41.11.22)
時効完成後の第三者との関係
時効完成後の第三者は、177条の「第三者」にあたる。登記なくして取得時効を対抗することはできない。(大連判大14.7.8、最判昭33.8.28)
3 正しい。登記なくして取得時効を対抗することができる。
相続と登記
相続人が2人以上いる場合を共同相続という。相続財産は、一旦相続人全員の共有に属し(898条)、遺産分割(906条以下)を経れば、各相続人に帰属する。
(共同相続の効力)
第八百九十八条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
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法定相続分を超えない部分については、登記その他の対抗要件を備えなくても、その権利の承継を第三者に対抗できる。(899条の2第1項の反対解釈)
この第三者は、登記なくして対抗しうる者(無権利者)に該当する。※他の共同相続人の法定相続分について無権利となる。
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
(略)
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4 正しい。他の共同相続人は、自己の持分を登記なくして対抗することができる。
(参考文献)C-Book 民法Ⅱ〈物権〉 改訂新版(東京リーガルマインド)