今回のテーマは、契約における「申込みと承諾」である。
それでは、宅地建物取引士資格試験で出題された民法の過去問にチャレンジしてみよう。
過去問にチャレンジ(令和3年度 宅地建物取引士資格試験問題)
【問 8】 AはBに対して、Aが所有する甲土地を1,000万円で売却したい旨の申込みを郵便で令和3年7月1日に発信した(以下この問において「本件申込み」という。)が、本件申込みがBに到着する前にAが死亡した場合における次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。
1 Bが承諾の通知を発する前に、BがAの死亡を知っていたとしても、本件申込みは効力を失わない。
2 Aが、本件申込みにおいて、自己が死亡した場合には申込みの効力を失う旨の意思表示をしていたときには、BがAの死亡を知らないとしても本件申込みは効力を失う。
3 本件申込みが効力を失わない場合、本件申込みに承諾をなすべき期間及び撤回をする権利についての記載がなかったときは、Aの相続人は、本件申込みをいつでも撤回することができる。
4 本件申込みが効力を失わない場合、Bが承諾の意思表示を発信した時点で甲土地の売買契約が成立する。
令和3年度 宅地建物取引士資格試験問題 (12月19日)
正解 2
それでは、各肢を検討していこう。なお、記事執筆時点の法令等に基づいているものとする。
民法の条文で確認しよう
1 誤り。
申込者(A)が死亡しており、相手方(B)は承諾の通知を発するまでにその事実を知っていたので、効力を有しない。(526条)
(申込者の死亡等)
第五百二十六条 申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。
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ここで、申込みの効力発生時期についてまとめておこう。
申込みの効力発生時期
原則
- 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる(97条1項)到達主義
- 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。(97条3項)
(意思表示の効力発生時期等)
第九十七条 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
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例外
以下の場合は、その申込みは効力を有しない。(申込者の死亡・意思能力の喪失・行為能力の制限)
- 申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき(526条)
- その相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったとき(526条)
(申込者の死亡等)
第五百二十六条 申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。
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2 正しい。(526条)
3 誤り。
承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。(525条1項本文)
ここで、承諾の期間の定めのない申込みの拘束力についてまとめておこう。
承諾の期間の定めのない申込みの拘束力
申込みが相手方に到達すると、申込者は原則として撤回することができない。(申込みの拘束力、523条1項本文、525条1項本文)
「撤回」とは、意思表示をした者が、取消原因に基づかず、一方的な意思表示により、その意思表示をなかったものとすること。
承諾の期間の定めのない申込み
申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。(525条1項本文)
ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。(525条1項ただし書)
対話者間における承諾の期間の定めのない申込み
対話者に対してした承諾の期間の定めのない申込みは、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。(525条2項)
(承諾の期間の定めのない申込み)
第五百二十五条 承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
2 対話者に対してした前項の申込みは、同項の規定にかかわらず、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。
3 対話者に対してした第一項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない。
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なお、本肢は、相続人について問うているが、相続とは、狭い意味では、人が死亡した場合に、その死者と一定の親族関係がある者が財産上の法律関係を当然に、かつ包括的に承継することをいう。この場合、死者を被相続人といい、承継する親族を相続人という。ちなみに、これに遺言による財産の処分(遺贈)を含めて、広い意味の相続という。
(参考)承諾の期間の定めのある申込みは、撤回することができない。(523条1項本文)
ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。(523条1項ただし書)
(承諾の期間の定めのある申込み)
第五百二十三条 承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
(略)
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4 誤り。
意思表示はその通知が相手方に届いたときに効力を生じる(97条1項)
承諾とは
承諾とは、特定の申込みを了承することにより契約を成立させる意思表示をいう。そして、承諾の内容は、申込みの内容と一致するものでなければならない。
申し込みを受けた者は、契約自由の原則(521条1項)により、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
承諾の意思表示は、その通知が申込者に到達した時からその効力を生ずる。(97条1項)
なお、「申込みの承諾適格」がある間でなければ、承諾の意思表示が申込者に到達しても、契約は成立しない。「申込みの承諾適格」とは、承諾さえあれば、契約が成立する状態のことをいう。
(契約の締結及び内容の自由)
第五百二十一条 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
(略)
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(参考文献)C-Book 民法Ⅳ〈債権各論〉 改訂新版(東京リーガルマインド)、C-Book 民法Ⅴ〈親族・相続〉 改訂新版(東京リーガルマインド)