今回のテーマは、民法の「相続」である。

それではさっそく、「管理業務主任者試験」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。

令和4年度 管理業務主任者試験問題【問5】

【問 5 】 Aが死亡した場合における相続に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、不適切なものはいくつあるか。

ア Aの子Bが相続放棄をした場合は、Bの子でAの直系卑属であるCが、Bに代わって相続人となる。
イ Aの子Dに相続欠格事由が存在する場合は、Dの子でAの直系卑属であるEが、Dに代わって相続人となる。
ウ Aの遺言によりAの子Fが廃除されていた場合は、Fの子でAの直系卑属であるGが、Fに代わって相続人となる。
エ Aの子HがAより前に死亡し、さらにHの子でAの直系卑属であるIもAより前に死亡していた場合は、Iの子でAの直系卑属であるJが相続人となる。

1  一つ
2  二つ
3  三つ
4  四つ

令和4年度 管理業務主任者試験問題 令和4年(2022年)12月4日
正解:1

それでは、各肢を検討していこう。なお、法令等は、令和4年4月1日現在で施行されているものによるものとする。

ア 誤り。

多くの場合、親→子→孫というように財産が相続される。しかしそうでない場合、相続人となるべき子または兄弟姉妹が一定の事由により相続権を失った場合、その者の子が、その者が受けるはずだった相続分を、被相続人から直接に相続できる。これを代襲相続という。(民法887条2項、889条2項)

相続権を失ったために自らは相続できない者を被代襲者、被代襲者の順位に上がってその相続分を被相続人から相続する者を代襲者(代襲相続人)という。

なお、代襲される者(被代襲者)は、被相続人の子(直系卑属)または兄弟姉妹に限られる。(同887条2項・3項、889条2項)

また、代襲相続には代襲原因が必要である。

代襲原因

  1. 被代襲者が、相続開始以前に死亡した場合
  2. 被代襲者が、相続欠格(民法891条)・廃除(同892条・893条)により相続権を失った場合

そして、相続放棄は代襲原因とはならない。民法では、相続放棄した者を「初めから相続人とならなかったものと」みなしており、(同939条)相続放棄を代襲原因から除いている。

(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

(相続人の欠格事由)
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者


(推定相続人の廃除)
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

民法|e-Gov法令検索

イ 正しい。

相続欠格(民法891条)は、代襲原因となる。(同887条2項)よって、Eは相続人となる。

ウ 正しい。

廃除(民法892条・893条)も、代襲原因となる。(同887条2項)よって、Gは相続人となる。

エ 正しい。

代襲相続人は、被代襲者の子でなければならない。すなわち、被相続人の子の子(孫)や被相続人の兄弟姉妹の子(甥・姪)である。

被代襲者が被相続人の子である場合、被代襲者の子(被相続人の)も代襲相続権を失ったとき(被相続人の死亡以前に死亡していたときや、被相続人の相続に関して相続欠格・廃除により相続権を喪失したとき)は、被代襲者の子に直系卑属(被相続人の曾孫)がいれば、その直系卑属が代襲相続権をもつ。(民法887条3項)これを再代襲という。

よって、Iの子でAの直系卑属である(被相続人Aの曾孫)Jは相続人となる。

エ肢の図解

なお、889条2項は、887条3項を準用していない。したがって、被代襲者が被相続人の兄弟姉妹の場合は、再代襲はない。一般的な感覚として、被相続人にとって、甥、姪までは近しいと感じるが、その子まではそうではないだろう。

したがって、不適切なものは一つであり、1が正解となる。

(参考)民法VI 親族・相続〔第6版〕 (LEGAL QUEST) 前田陽一ほか著 (有斐閣)、C-Book 民法V〈親族・相続〉 改訂新版 (東京リーガルマインド)