今回のテーマは、「意思表示」である。

それでは、「管理業務主任者試験」で出題された民法の過去問にチャレンジしてみよう。

【問 1】 Aが、Bとの間で、自己の所有するマンションの一住戸甲をBに売却する旨の契約を締結した場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、最も適切なものはどれか。


1 Aが、所有権を移転する意思がないにもかかわらず、Bと売買契約を締結した場合に、Bがその真意を知り、又は知ることができたときは、Aは、Bに対して当該契約の無効を主張することができる。

2 Aが、所有権を移転する意思がないにもかかわらず、Bと通謀して売買契約を締結し、所有権移転登記を済ませた後に、BがAに無断で、その事情を知らない第三者Cに甲を転売した場合に、Cにその事情を知らないことについて過失があるときは、Aは、Cに対して、虚偽表示による当該売買契約の無効を主張することができる。

3 Aが、Bの詐欺を理由として当該売買契約を取り消した場合に、Aの取消し前に、Bが、その事情を知らず、かつその事情を知らないことについて過失のある第三者Dに甲を転売していたときは、Aは、Dに対して取消しの効果を主張することができない。

4 Aが、Bの強迫を理由として当該売買契約を取り消した場合に、Aの取消し前に、Bが、その事情を知らず、かつその事情を知らないことについて過失のない第三者Eに甲を転売していたときは、Aは、Eに対して取消しの効果を主張することができない。


管理業務主任者試験 令和3年12月5日 問題
正解:1

「意思表示」については、これまでに「学びを始めよう」ブログでも取り上げている。下記リンクを参照(外部リンク)。

それでは、改めて各肢を検討してみよう。

1 正しい。「心裡留保」についての出題である。

意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。(93条1項本文)しかし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。(93条1項ただし書)

したがって、AはBに無効を主張できる。

2 誤り。 「虚偽表示」についての出題である。

相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。(94条1項)しかし、この意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。(94条2項)

Cは「善意の第三者」にあたるので、AはCに対して無効を主張できない。

3 誤り。「詐欺」についての出題である。

詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。(96条1項)しかし、詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。(96条3項)

この点、Dには過失があるので、「善意でかつ過失がない第三者」にあたらず、Aは、Dに対して取消しの効果を主張できる。

4 誤り。「強迫」についての出題である。

強迫による意思表示は、取り消すことができる。(96条1項)なお、善意でかつ過失がない第三者にも対抗できる。(96条3項の反対解釈)

AはEに対して取消しの効果を主張することができる。