賃貸不動産経営管理士の活躍が必要不可欠です

今日の不動産業界では、フローからストックの時代を迎え、賃貸住宅のニーズの増加・高度化とともに賃貸不動産管理の重要性は一層高まっています。それに伴い、管理業者の数も増え、市場が大きく活性化されていますが、同時に上記のような課題を抱えた業界でもあります。
この業界のさらなる適正化・高度化を目指すためには、賃貸不動産管理に関する専門的な知識を持ち、家主と入居者等に対し、公正中立な立場で職務を行う、「賃貸不動産経営管理士」が必要不可欠となってくるでしょう。
また、流動的な時代を反映した多種多様な契約形態や管理方法を提案、空き家をリノベーションし再利用、有益な管理物件に変えるなど、課題を解決するだけでなく、新たなビジネスチャンスを引き出す役割としても期待が高まっています。

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さて、今回のテーマは、「弁済の充当」である。

それでは、「賃貸不動産経営管理士」試験で出題された民法の過去問にチャレンジしてみよう。

令和2年度 賃貸不動産経営管理士試験問題  

【問 22】 賃貸人Aは賃借人Bに対して、賃料(共益費込み)月額金 10 万円、当月分前月末日払い、遅延した場合は年 10%の遅延損害金を請求できる旨の約定でアパートの一室を賃貸した。Bは、令和2年 10 月分、同年 11 月分及び同年 12 月分の賃料を滞納したが、同年 12 月 15 日、Aに金 20 万円を持参した。この場合、賃料の充当に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 

1 弁済の充当に関する民法の定めは強行規定であるため、AB間でこれと異なる合意をしても無効である。 

2 Aは、Bが充当を指定しない場合、金 20 万円を受領時に、いずれの債務に充当するかを指定することができる。 

3 Bは、Aに対して、令和2年 10 月分の賃料及び同月分の遅延損害金に金 20万円を優先的に充当するよう指定することができない。 

4 Bが持参した現金は、遅延損害金、元本及び費用の順で充当される。

令和2年度 賃貸不動産経営管理士試験問題 令和2年11月15日 
正解:2

それでは、各肢を検討していこう。なお、2022年4月1日現在の法令に基づいているものとする。

1 誤り。

弁済(473条)とは、債務の本旨に従って債務の内容たる一定の給付を実現する債務者その他の第三者の行為をいう。そして、弁済がなされると、債務は消滅する。これを弁済の効果という。民法では、この弁済の効果について、いくつかの規定を置いている。このうち本問で問われているのは「弁済の充当」である。「弁済の充当」とは、弁済者が提供した物が複数の債務のすべてを消滅させるのに足りないとき、いずれの債務の弁済にあてるべきかということである。そして、民法は、弁済の充当の方法について以下の規定を設けている。

  • 合意充当(490条)
  • 当事者の一方による指定充当(488条1項2項3項)
  • 法定充当(488条4項)

このうち合意充当は、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。(490条)

したがって、弁済の充当に関する民法の定めは任意規定であり、AB間でこれと異なる合意をしても有効である。

(弁済)
第四百七十三条 債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。

(同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当)
第四百八十八条 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第一項に規定する場合を除く。)は、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。
4 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第一項又は第二項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
二 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)
第四百八十九条 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2 前条の規定は、前項の場合において、費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。

(合意による弁済の充当)
第四百九十条 前二条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。


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2 正しい。

弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき、弁済をする者が、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。(488条2項)

したがって、Aは、Bが充当を指定しない場合、いずれの債務に充当するかを指定することができる。

3 誤り。

弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。(488条1項)

したがって、Bは、Aに対して、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。

4 誤り。

債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。(489条1項)

したがって、費用→利息→元本の順に充当しなければならない。