今回のテーマは、「借地借家法(借家権)」である。
それでは、宅地建物取引士資格試験(宅建試験)の過去問にチャレンジしてみよう。
令和4年度 宅地建物取引士資格試験 【問12】
【問12】 Aは、B所有の甲建物(床面積100㎡)につき、居住を目的として、期間2年、賃料月額10万円と定めた賃貸借契約(以下この間において「本件契約」という。)をBと締結してその日に引き渡しを受けた。この場合における次の記述にうち、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば、誤っているものはどれか。
1 BはAに対して、本件契約締結前に、契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了する旨を記載した賃貸借契約書を交付して説明すれば、本件契約を借地借家法第38条に規定する定期建物賃貸借契約として締結することができる。
2 本件契約が借地借家法第38条に規定する定期建物賃貸借契約であるか否かにかかわらず、Aは、甲建物の引渡しを受けてから1年後に甲建物をBから購入したCに対して、賃借人であることを主張できる。
3 本件契約が借地借家法第38条に規定する定期建物賃貸借契約である場合、Aの中途解約を禁止する特約があっても、やむを得ない事情によって甲建物を自己の生活の本拠として使用することが困難になったときは、Aは本件契約の解約を申し入れをすることができる。
4 AがBに対して敷金を差し入れている場合、本件契約が期間満了で終了するに当たり、Bは甲建物の返還を受けるまでは、Aに対して敷金を返還する必要はない。
令和4年度 宅地建物取引士資格試験 令和4年10月16日
正解:1
それでは、各肢を検討していこう。なお、法令等は、令和4年4月1日現在で施行されているものによるものとする。
1 誤り。
契約の更新がない借家権については、借地借家法では、「定期建物賃貸借」において、規定が置かれている。そして、期間の定めがある建物の賃貸借においては、公正証書による等書面(電磁的記録によるものを含む)によって契約をするときに限り、契約の更新がない旨を定めることができる。(借地借家法38条1項・2項)定期借家権
さらに、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、定期借家であることにつき、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。(同条3項)そして、ここで要求される書面は、賃貸借契約書とは別個独立のものでなければならない。
建物の賃貸人がこの説明をしなかったとき、または契約書と別個独立の書面を交付しなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効となる。(同条5項)
(定期建物賃貸借)
第三十八条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2 前項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。
3 第一項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
4 建物の賃貸人は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、建物の賃借人の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって法務省令で定めるものをいう。)により提供することができる。この場合において、当該建物の賃貸人は、当該書面を交付したものとみなす。
5 建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
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2 正しい
借地借家法上の建物賃貸借については、借家権の登記がなくても、賃借人への建物の引渡しがあれば、賃借人は、その後にその建物について物権を取得した者、例えばその建物の譲受人に対して借家権を対抗することができる。(借地借家法31条)
(建物賃貸借の対抗力)
第三十一条 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
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3 正しい。
定期借家権が設定された場合、賃貸借期間中に解約申し入れにより契約を終了させることは原則としてできない。ただし、床面積が200平方メートル未満の居住用建物に関する定期借家については、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。(借地借家法38条7項)
(定期建物賃貸借)
第三十八条 (略)
7 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
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4 正しい。
賃借人の賃貸物返還義務と賃貸人の敷金返還義務は同時履行の関係に立たない。したがって、賃借人は、特約のない限り、同時履行の抗弁権(民法533条)または留置権(同295条)を主張して、敷金が返還されるまで家屋明け渡しを拒絶することはできない。
したがって、賃貸物の返還が先履行となる。
(参考)民法IV 契約 (LEGAL QUEST) (有斐閣)