今回のテーマは、「区分所有法&民法(管理者)」である。

それではさっそく、「マンション管理士試験」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。

令和4年度 マンション管理士試験 〔問4〕

〔問 4〕 甲マンションにおける管理者が区分所有者Aである場合の管理者の立場等に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法(明治29 年法律第89 号)の規定によれば、正しいものはどれか。ただし、規約に別段の定めはないものとする。
1 Aは、集会の決議を経ることなく、共用部分の保存行為をするとともにその形状又は効用の著しい変更を伴わない変更をすることができる。
2 Aは、甲マンションの大規模修繕工事について、自己の利益を図る目的で請負契約を締結して工事代金を支払ったとしても、当該契約が集会の決議に基づき締結したものであれば、善良な管理者の注意義務違反を問われることはない。
3 Aは、規約又は集会の決議により、その職務に関し、区分所有者のために原告となることができるが、その場合には、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。
4 甲マンションの敷地が、区分所有者の共有又は準共有に属しない場合、Aは甲マンションの敷地に関して、これを保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権限を有する。

令和4年度 マンション管理士試験

正解:なし

それでは、各肢を検討していこう。なお、問題は、令和4年4月1日現在施行されている法令等により出題されているが、正解及び解説は令和5年4月1日現在施行されている法令等に基づいて執筆する。

1 誤り。

管理者は、共用部分の保存行為ができる。(区分所有法26条1項)しかし、その形状又は効用の著しい変更を伴わない共用部分の変更は、集会の普通決議で決する。(同17条1項)そして、管理者は、その集会の決議を実行しなければならない。(同26条1項)
この点、管理者が管理所有者であれば、その形状又は効用の著しい変更を伴わない共用部分の変更の場合、集会の決議は不要であるが、本肢では、管理者が管理所有者であるとの記述はないので、誤りの肢となる。

(区分所有者の権利義務等)
第六条 (略)
2 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。

(共用部分の共有関係)
第十一条 共用部分は、区分所有者全員の共有に属する。ただし、一部共用部分は、これを共用すべき区分所有者の共有に属する。
2 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。ただし、第二十七条第一項の場合を除いて、区分所有者以外の者を共用部分の所有者と定めることはできない。

(共用部分の変更)
第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
(略)


(管理所有者の権限)
第二十条 第十一条第二項の規定により規約で共用部分の所有者と定められた区分所有者は、区分所有者全員(一部共用部分については、これを共用すべき区分所有者)のためにその共用部分を管理する義務を負う。この場合には、それらの区分所有者に対し、相当な管理費用を請求することができる。
2 前項の共用部分の所有者は、第十七条第一項に規定する共用部分の変更をすることができない。

(権限)
第二十六条 管理者は、共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第四十七条第六項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。
(略)

(管理所有)
第二十七条 管理者は、規約に特別の定めがあるときは、共用部分を所有することができる。
2 第六条第二項及び第二十条の規定は、前項の場合に準用する。

(議事)
第三十九条 集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
(略)
建物の区分所有等に関する法律 e-Gov法令検索

2 誤り。

管理者の権利義務は、民法の委任に関する規定が準用される。(同28条) そして、受任者(管理者)は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。(善管注意義務)(民法644条)

自己の利益を図る目的で請負契約を締結して工事代金を支払った行為は、この善管注意義務違反となる。
したがって、問われることはあり得る。

3 誤り。

管理者は、規約又は集会の決議により、その職務に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。(区分26条4項)そして、管理者は、規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。(同5項)
しかし、集会の決議により、原告又は被告となつたときは、区分所有者への通知は不要である

(権限)
第二十六条(略)
4 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
5 管理者は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第三十五条第二項から第四項までの規定を準用する。

建物の区分所有等に関する法律 e-Gov法令検索

4 誤り。

管理者は、共用部分等を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。(同26条1項)
さらに、建物の敷地又は共用部分以外の附属施設が区分所有者の共有に属し、またはこれらの物に関する地上権、賃借権等の権利が区分所有者の準共有に属している場合は、管理者は、敷地および付属施設について、共有部分と同様の権限を有し、義務を負う。(同26条1項、21条)

したがって、本肢のように、区分所有者の共有又は準共有に属しない場合、Aは甲マンションの敷地に関して、これを保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権限を有しない。