今回のテーマは、「物権変動の対抗要件」である。
それではさっそく、「マンション管理士試験」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
令和4年度 マンション管理士試験 〔問17〕
〔問 13〕 Aは、Bとの間で、甲マンションの1室である501 号室をBに売却する旨の売買契約を締結した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 Aが501 号室を退去した後に、居住するための権利を有しないCが同室に居住している場合、AからBへの501 号室の区分所有権の移転登記が経由されていないときは、Bは、Cに対して、同室の明渡しを請求することができない。
2 AからBへの501 号室の区分所有権の移転登記が経由されない間に、AがCに同室を売却する旨の売買契約を締結し、Cに同室が引き渡された場合において、AからB及びCのいずれに対しても同室の区分所有権の移転登記を経由していないときは、Bは、Cに対して同室を明け渡すように請求することができない。
3 AからBに501 号室の区分所有権の移転登記を経由した後に、AがBの詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消したが、その後にBがCに同室を売却する旨の売買契約を締結して、区分所有権の移転登記をBからCに経由し、Cが居住しているときは、Aは、Cに対して、同室の明渡しを求めることができない。
4 AからBに501 号室の区分所有権の移転登記が経由された後に、AがBの代金未払いを理由にAB間の契約を解除したが、その解除の前にBがCに同室を売却する旨の売買契約を締結してCが居住している場合、区分所有権の移転登記がBからCに経由されていないときは、Aは、Cに対して、同室の明渡しを求めることができる。
令和4年度 マンション管理士試験
それでは、各肢を検討していこう。なお、問題は、令和4年4月1日現在施行されている法令等により出題されているが、正解及び解説は令和5年4月1日現在施行されている法令等に基づいて執筆する。
1 誤り。
物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。(176条)したがって、AB間の売買の成立により所有権はBに移転しているが、不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。(177条)
しかし、Cは居住するための権利を有していないので、不法占拠者である。不法占拠者は、「第三者」に該当しない。したがって、Bは、Cに対して、501号室の明渡しを請求することができる。
2 正しい。
、不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。(177条)不動産が二重譲渡された場合、その登記がなければ、契約の前後を問わず、双方の譲受人は所有権を主張できない。
3 正しい。
民法96条3項の第三者を保護する規定が適用されるのか、対抗関係として同177条の規定が適用されるのかの問題である。
こちらを参照していただきたい。
↓
民法を学ぼう(詐欺)
ポイントになるのが、Aの取り消しの意思表示とC(第三者)の登場のタイミングである。
Cの登場は、Aの取消し後なので、民法177条の対抗関係の問題となり、Cが登記を経ている以上、Aは、Cに対して、同室の明渡しを求めることができない。
4 正しい。
AがBの代金未払いを理由にAB間の契約を解除した場合、その解除の前にBがCに同室を売却する旨の売買契約を締結していたときは、Cの権利を害することができない(545条1項ただし書 第三者保護の規定)とされるが、Cが「第三者」として保護されるためには登記が必要となる。(判例)
したがって、Cは501号室の移転登記を経由していないので、Aは、Cに対して、同室の明渡しを求めることができる。