今回のテーマは、「民法の充当の弁済」である。

それではさっそく、「管理業務主任者試験」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。

令和4年度 管理業務主任者試験問題【問37】

【問 37】 滞納管理費が一部弁済された場合の充当順序を判断する要素である次のア~オについて、民法の規定によれば、優先順位の高い順に並べたものとして、最も適切なものはどれか。

ア 規約の定めによる充当順序
イ 管理組合が滞納組合員に対する意思表示により指定した充当順序(滞納組合員から直ちに異議を意思表示しなかった場合)
ウ 滞納組合員が管理組合に対する意思表示により指定した充当順序
エ 滞納組合員の利益の多い順序
オ 弁済期の先後

充当順序

 第一順位第二順位第三順位第四順位第五順位

令和4年度 管理業務主任者試験問題 令和4年(2022年)12月4日

正解:1

それでは、問題を検討していこう。なお、法令等は、令和4年4月1日現在で施行されているものによるものとする。

債務者が債権者に対して負う同種の給付を目的とする数個の債務について、債務者が給付がその債務すべてを消滅させるのに足りないときは、どの債務の充当に充てるべきかを定める必要がある。これが「弁済の充当」である。

充当の方法
充当の順序は、合意があればそれによる。「合意充当」(民法490条)
本問では、「ア 規約の定めによる充当順序」は、当事者間の「合意」にあたるので、最も優先される。

合意がなければ、民法の規定により、「指定充当」→「法定充当」の順序になる。

「指定充当」とは、当事者の一方の指定によって充当することである。
弁済者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。(同488条1項)
したがって、2番目に優先されるのは、「ウ 滞納組合員が管理組合に対する意思表示により指定した充当順序」である。

弁済者が指定しないときは、弁済受領者が、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。(同488条2項本文)
したがって、3番目に優先されるのは、「イ 管理組合が滞納組合員に対する意思表示により指定した充当順序(滞納組合員から直ちに異議を意思表示しなかった場合)」である。

当事者双方が充当の指定をしないときは、法定充当に移行する。(同488条4項)
法定充当は次の順序による。

  1. 弁済期にあるもの(同488条4項1号)
  2. 債務者のために弁済の利益が多いもの(同488条4項2号)
  3. 弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきもの(同488条4項3号)
  4. 以上の基準で先後が決定されない場合には、各債務の額に応じて充当する(同488条4項4号)

本問に当てはめてみると、4番目に優先されるのは、上記「2債務者のために弁済の利益が多いもの」にあたる「エ 滞納組合員の利益の多い順序」である。

最後は、上記「3弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきもの」にあたる「オ 弁済期の先後」となる。

したがって、ア→ウ→イ→エ→オ となる。

(同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当)
第四百八十八条 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第一項に規定する場合を除く。)は、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。
4 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第一項又は第二項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
二 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

(合意による弁済の充当)
第四百九十条 前二条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。

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(参考)C-Book 民法III〈債権総論〉 改訂新版(東京リーガルマインド)、民法III 債権総論 (LEGAL QUEST)(有斐閣)