今回のテーマは、「自動車損害賠償責任保険(以下、「自賠責保険」という)」である。

それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<基礎編>(2023年5月28日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。

ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<基礎編>(2023年5月28日実施)問題13

《問13》 自動車損害賠償責任保険(以下、「自賠責保険」という)に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。

1) 自賠責保険は、自動車の運行中の事故に対して保険金が支払われるが、運行には自動車の走行だけではなく、クレーン車のクレーン操作などの自動車に構造上設備されている装置を本来の目的に従って使用する場合も含まれる。
2) 複数台の自動車による事故において、共同不法行為により他人の身体に損害を与えた場合、自賠責保険の保険金額に加害者の有効な自賠責保険の契約数を乗じたものが、保険金の支払限度額になる。
3) 自賠責保険では、保険契約者または被保険者の悪意によって発生した損害について保険金は支払われないが、被害者は、保険会社に対し、保険金額の限度において損害賠償額の支払を請求することができる。
4) 自賠責保険では、自動車事故の被害者の過失割合が5割以上の場合、積算した損害額が保険金額に満たないときには積算した損害額から、保険金額以上となるときには保険金額から、被害者の過失割合に応じて2割から5割の減額が行われる。

ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<基礎編>(2023年5月28日実施)

正解:4

それでは、各肢を検討していこう。
2023年5月実施の問題は、2022年10月1日現在施行されている法令等により出題されているが、正解及び解説は2023年4月1日現在施行されている法令等に基づいて執筆する。

1 正しい。

自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という)における「運行」とは、自動車の走行中だけではなく、駐停車中も含まれるとともに、自動車に構造上設備されているすべての装置を本来の目的に従って使用する場合、例えばクレーン車のクレーン操作中なども、「運行」と解釈されている。(自賠法第2条第2項)

(定義)
第二条 この法律で「自動車」とは、道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第二条第二項に規定する自動車(農耕作業の用に供することを目的として製作した小型特殊自動車を除く。)及び同条第三項に規定する原動機付自転車をいう。
2 この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。
(略)

自賠法・e-Gov法令検索

(参考)(一社)日本損害保険協会のWebサイト

2 正しい。

2台以上の自動車による事故では加害者が複数いる場合がある。(これを「共同不法行為」という。)このような場合、被害者はそれぞれの加害者が契約している保険会社に直接請求することができる。ただし、総損害額が上記支払保険金の限度額内であれば、いずれか1社に請求すればよいことになっている。
なお、この場合の支払保険金の限度額は、通常、加害者の車両台数分に応じて増加する

(参考)(一社)日本損害保険協会のWebサイト

3 正しい。

契約者または被保険者の悪意(故意が明白であること)による場合には自賠責保険からの保険金は支払われない(自賠法14条)が、被害者から加害者が契約している保険会社に対して損害賠償額を直接請求することができる。(これを「被害者請求」という)この直接請求権は自賠法によって保障された権利であり、悪意の場合に限らず、自動車の運行による損害賠償責任が発生していれば、被害者はこの権利を行使することができる。そして、保険会社は支払った金額について政府に対して補償を求めることができる。(自賠法16条)

(参考)(一社)日本損害保険協会のWebサイト

4 誤り。

自賠責保険では、被害者保護を目的としているため、一般の民事損害賠償と同様の過失相殺は厳格に適用されない。被害者に重大な過失(過失割合7割以上)がある場合に限って、その過失の程度に応じて損害賠償額が減額される。(重過失減額

以下、参考までに掲載する。

第6 減額
1 重大な過失による減額
被害者に重大な過失がある場合は、次に掲げる表のとおり、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から、保険金額以上となる場合には保険金額から減額を行う。ただし、傷害による損害額(後遺障害及び死亡に至る場合を除く。)が20万円未満の場合はその額とし、減額により20万円以下となる場合は20万円とする。

減額適用上の
被害者の過失割合
減額割合
後遺障害又は死亡に係るもの傷害に係るもの
7割未満減額なし減額なし
7割以上8割未満2割減額2割減額
8割以上9割未満3割減額
9割以上10割未満5割減額
重大な過失による減額措置

2(以下略)

自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(2001年金融庁、国土交通省告示第1号)

(参考)(一社)日本損害保険協会のWebサイト