今回は、「不動産の売買契約上の留意点」を取り上げる。民法上の原則を押さえよう。
手付金
民法上、手付金は特に定めのない限り、解約手付と推定される。
契約の相手方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付金を放棄して、売主は手付金の倍額を現実に提供して契約を解除できる。
(手付)
第五百五十七条 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
(略)
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契約の履行に着手した例
- 売主・・・引き渡し、登記
- 買主・・・内金や残代金の支払い
契約不適合責任
民法上、売主が買主に引き渡すべき契約の目的物が、種類・品質・数量に関して、契約の内容に適合しないものである場合は、買主は売主に修補・代替物の引き渡し・不足分の引き渡しを求めることができる。(追完請求権)(民法第562条)
買主は相当の期間を定めて履行の追完を催告し、その期間内に履行の追完がないとき、代金減額を請求できる。(代金減額請求権)(民法第563条)
また、買主は、損害賠償請求や、契約の解除することもできる。(民法第564条)
契約不適合責任の期間
民法・・買主は、「不適合の事実(瑕疵)を知った日から1年以内に、売主に通知する」ことになる。特約により、期間を短くしたり、責任を免除することができる。ただし、売主が不適合の事実を知りながら、買主に告げなかったときは責任を負う。(民法第566条)
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第五百六十六条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
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住宅品質確保促進法・・新築住宅の構造耐力上主要な部分及び雨水の侵入を防止する部分について、引き渡し日から10年間、売主は責任を負う。
その他契約上の留意点
1.不動産の売買契約の効力
契約書を作成しなくとも効力を有する。(参考:民法を学ぼう(法律行為総説))
2.未成年者による契約
未成年者が法定代理人の同意を得ずに不動産の売買契約を締結した場合、法定代理人または未成年者はその契約を取り消すことができる。ただし、未成年者が詐術を用いた場合、取り消すことができない。
(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
(略)
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(制限行為能力者の詐術)
第二十一条 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない
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3.共有持分の譲渡・共有物の譲渡
共有持分を譲渡するときは、他の共有者の同意を得なくても単独で譲渡できる。
なお、共有物全体を譲渡するときは、共有者全員の同意が必要となる。
4.同一不動産の二重譲渡
譲受人相互間では、原則として、先に登記したほうが所有権を取得する。
それでは、これまで見てきたポイントを過去問で確認してみよう。
過去問にチャレンジ
問題 43
不動産の売買契約に係る民法の規定に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。なお、特約については考慮しないものとする。
1.不動産の売買契約は、契約書を作成しなければその効力を生じない。
2.建物が共有の場合、各共有者は、自己が有している持分を第三者に譲渡するときには、他の共有者の同意は必要としない。
3.買主が売主に解約手付を交付した場合、買主が代金の一部を支払った後でも、売主は、自らが契約の履行に着手するまでは、受領した代金を返還し、かつ、受領した手付の倍額を買主に現実に提供することにより、契約を解除することができる。
4.同一の不動産について二重に売買契約が締結された場合、譲受人相互間においては、所有権移転登記の先後にかかわらず、原則として、売買契約を先に締結した者が当該不動産の所有者となる。
2022年5月試験 2級学科試験
1 契約書は不要である。
2 正しい
3 相手方が履行に着手する前なら可能である。買主が行った代金の一部の支払いは契約の履行にあたる。
4 登記の前後が優先される。不動産に関する権利の第三者の対抗要件は登記である。
参考文献)’22~’23年版 最短合格2級FP技能士(きんざい)、うかる! FP2級・AFP 王道テキスト 2022-2023年版 (日本経済新聞出版)