宅地建物取引士資格試験(宅建試験)で出題された民法の過去問にチャレンジしてみよう。

今回のテーマは、「失踪宣告の取消し」である。

令和4年度 宅地建物取引士資格試験 問題

【問 7】不在者Aが、家庭裁判所から失踪宣告を受けた。Aを単独相続したBは相続財産である甲土地をCに売却(以下この問において「本件売買契約」という。)して登記も移転したが、その後、生存していたAの請求によって当該失踪宣告が取り消された。本件売買契約当時に、Aの生存について、(ア)Bが善意でCが善意、(イ)Bが悪意でCが善意、(ウ)Bが善意でCが悪意、(エ)Bが悪意でCが悪意、の4つの場合があり得るが、これらのうち、民法の規定及び判例によれば、Cが本件売買契約に基づき取得した甲土地の所有権をAに対抗できる場合を全て掲げたものとして正しいものはどれか。

1 (ア)、(イ)、(ウ)
2 (ア)、(イ)
3 (ア)、(ウ)
4 (ア)

令和4年度 宅地建物取引士資格試験 令和4年10月16日
正解:4

それでは、失踪宣告の取消しについて概要を確認したのち、各肢を検討していこう。なお、法令等は、令和4年4月1日現在で施行されているものによるものとする。

失踪宣告の取消しとは(32条)

要件

失踪宣告の取消しは、以下の要件が備わった場合に、家庭裁判所が審判によって行う。

  • 「失踪者が生存すること」(32条1項前段)又は宣告によって死亡したとみなされる時と「異なる時に死亡したこと」(32条1項前段)
  • 本人又は利害関係人の請求(32条1項前段)

効果

初めから失踪宣告がなかったものとして扱われる。すなわち、失踪宣告を原因として生じた権利義務の変動は生じなかったことになる。(失踪宣告の取消しの遡及効

効果の制限

失踪宣告後に行われた取引の効力について

失踪宣告の取消しまでの間になされたすべての財産移転行為が無効になると、第三者に不測の損害を与えるおそれがある。そこで、失踪宣告の取消しの遡及効を一定の場合に制限している

  1. 失踪宣告の取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。(32条後段)
  2. 現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。(32条2項ただし書)

このうち、1の「善意」については、判例は両当事者に必要としている。(大判昭13.2.7)

これは、真の権利者であるAから権利を奪うという重大な結果を生じさせるためには、契約の両当事者が善意であることが必要だという判断に基づくものと考えられる。(民法総則[第2版] NBS 原田昌和他著 85頁)

したがって、正解は 4「(ア)Bが善意でCが善意」となる。

(失踪の宣告の取消し)
第三十二条 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。

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