今回のテーマは、「賃料増減請求」である。

それでは、「賃貸不動産経営管理士」試験で出題された民法(借地借家法)の過去問にチャレンジしてみよう。

令和3年度 賃貸不動産経営管理士試験問題

【問 21】 賃料増減請求に関する次の記述のうち、適切なものの組合せはどれか。 

ア 賃料増減請求は、請求権を行使した時ではなく、客観的に賃料が不相当となった時に遡って効力を生ずる。 

イ 賃料改定を協議により行うとする特約が定められている場合であっても、賃料増減請求を行うことができる。 

ウ 借主が賃料減額請求を行ったが、協議が調わない場合、減額を正当とする裁判が確定するまでの間、借主は減額された賃料を支払えば足り、貸主は従前の賃料を請求することができない。 

エ 賃料改定については、合意が成立しなければ、訴訟によって裁判所の判断を求めることになるが、原則として、訴訟提起の前に調停を申し立てなければならない。 
 
1 ア、イ 
2 ア、ウ 
3 イ、エ 
4 ウ、エ

令和3年度 賃貸不動産経営管理士試験問題 
令和3年11月21日
正解:3

それでは、各肢を検討していこう。なお、2022年4月1日現在の法令に基づいているものとする。

ア 誤り。

建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。(借地借家法32条1項本文)

したがって、 賃料増減請求は、客観的に賃料が不相当となった時に遡って効力を生ずるものではない。

イ 正しい。

賃料改定特約があっても賃料増減額請求を行うこと自体は可能である。(借地借家法11条1項、32条1項参照)なお、実際に賃料増減額請求権が行使された時には、賃料改定特約は、賃料増減額請求の判断の中で重要な事情となる。

したがって、賃料改定を協議により行うとする特約が定められている場合であっても、賃料増減請求を行うことができる。

本件約定は,賃貸借当事者間の信義に基づき,できる限り訴訟によらずに当事者双方の意向を反映した結論に達することを目的としたにとどまり,当事者間に協議が成立しない限り賃料の増減を許さないとする趣旨のものではないと解するのが相当である。そして,賃料増減の意思表示が予め協議を経ることなく行なわれても,なお事後の協議によつて右の目的を達することができるのであるから,本件約定によつても,右の意思表示前に必ず協議を経なければならないとまでいうことはできない。また,当事者相互の事情によつて協議が進まない場合においては,本件約定は,当事者が訴訟により解決を求めることを妨げるものではないのであつて,右のような場合でも当事者は協議を尽くすべき義務を負い,これに違反すると先にした増減請求の意思表示は無効となると解すべきものではない。

最判昭56.4.20

ウ 誤り。

建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。(借地借家法32条3項本文)なお、「その請求を受けた者」とは、賃貸人のことである。

したがって、貸主は従前の賃料を相当と認める額とするときは、その賃料を請求することができる。

エ 正しい。

借地借家法第11条の地代若しくは土地の借賃の額の増減の請求又は同法第32条の建物の借賃の額の増減の請求に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない。(民事調停法24条の2①項)

(地代等増減請求権)
第十一条 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
(略)

(借賃増減請求権)
第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
借地借家法・e-Gov法令検索
(地代借賃増減請求事件の調停の前置)
第二十四条の二 借地借家法(平成三年法律第九十号)第十一条の地代若しくは土地の借賃の額の増減の請求又は同法第三十二条の建物の借賃の額の増減の請求に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない。
(略)

民事調停法・e-Gov法令検索