賃貸不動産経営管理士とは

賃貸不動産経営管理士は、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(以下、法律)において、賃貸住宅管理業務を行ううえで設置が義務付けられている「業務管理者」の要件とされた国家資格です。賃貸住宅管理に関する知識・技能・倫理観を持った専門家としてその能力を発揮し、賃貸不動産の管理を適切に行うことを通じて、賃貸不動産所有者の資産の有効活用、不動産に居住し利用する賃借人等の安全・安心を確保するといった非常に重要な役割を担っています。

一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会のウエブサイト

なお、本ブログでは、「賃貸不動産経営管理士」を「賃貸管理士」とよぶ。

それでは、「賃貸不動産経営管理士」試験で出題された過去問にチャレンジしてみよう。

今回のテーマは、「賃貸借契約の借主の義務」である。

令和4年度 賃貸不動産経営管理士試験問題 問23

【問 23】 令和3年10月1日に締結された、賃貸住宅を目的とする賃貸借契約の借主の義務に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。

1 大地震により賃貸住宅の一部が倒壊し、契約の目的を達することができなくなった場合、賃貸借契約は終了し、借主の賃料支払義務は消滅する。
2 大地震により賃貸住宅の一部が滅失した場合(ただし、契約の目的を達することは未だできるものとする。)、借主が賃料の減額請求をすることで賃料は減額される。
3 賃料債権が差し押さえられた場合、借主は賃料を貸主に支払ったとしてもそのことを差押債権者に通知すれば、差押債権者から取立てを受けず、以後賃料の支払を免れることができる。
4 賃料債権は、時効期間が経過しても消滅時効を援用する旨の意思表示がなければ消滅しない。

令和4年度 賃貸不動産経営管理士試験問題 令和4年(2022年)11月20日
正解:4

それでは、各肢を検討していこう。なお、2022年4月1日現在の法令に基づいているものとする。

1 誤り。

賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。(民法611条2項)

したがって、借主は「契約の解除をすることができる。」にとどまる。なお、この場合、解除権は「賃借人の責めに帰することができない事由」によるかにかかわらず認められる。

2 誤り。

賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。(民法611条1項)

したがって、賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるとき(大地震)は、賃料減額請求は不要であり、当然に減額される

(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
第六百十一条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

民法|e-Gov法令検索

3 誤り。

賃料債権が差し押さえられた場合、借主は賃料を貸主に支払うことはできない。

賃料の差押えとは、建物の貸主に対する債権者あるいは抵当権者が、裁判所への申立てによって、その建物に入居する借主が支払う賃料を差し押さえることをいう。借主は賃料を差し押さえられた場合は、債務者(貸主) に賃料を支払ってはならず、供託所に供託をするか債権者に賃料を支払うことを選択する必要がある。

CBREグループのウエブサイト
(差押命令)
第百四十五条 執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。
(略)

民事執行法 e-Gov法令検索

4 正しい。

時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。(民法145条)

したがって、援用しなければ、賃料債権は消滅しない。

時効の援用)
第百四十五条 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

民法|e-Gov法令検索

(参考)C-Book 民法IV〈債権各論〉 改訂新版 (東京リーガルマインド)