本ブログでは、「賃貸不動産経営管理士」を「賃貸管理士」と称する。

今回のテーマは、「原状回復」である。

それではさっそく、「賃貸不動産経営管理士試験」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。

令和4年度 賃貸不動産経営管理士試験 【問 10】

【問 10】 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)」(国土交通省住宅局平成23 年8月。以下、各問において「原状回復ガイドライン」という。)に関する次の記述のうち、適切なものはいくつあるか。

ア 借主の負担は、建物、設備等の経過年数を考慮して決定するものとし、経過年数による減価割合は、償却年数経過後の残存価値が10%となるようにして算定する。
イ 中古物件の賃貸借契約であって、入居直前に設備等の交換を行っていない場合、入居時点の設備等の価値は、貸主又は管理業者が決定する。
ウ 借主が通常の住まい方をしていても発生する損耗であっても、その後の借主の管理が悪く、損耗が拡大したと考えられるものは、借主が原状回復費用を全額負担する。
エ 経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能なものを借主が故意又は過失により破損した場合、借主は新品に交換する費用を負担する。

1 なし
2 1つ
3 2つ
4 3つ

令和4年度 賃貸不動産経営管理士試験

正解:1

それでは、各肢を検討していこう。
なお、問題は、2022年4月1日現在施行されている法令等により出題されているが、正解及び解説は2023年4月1日現在施行されている法令等に基づいて執筆する。

なお、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)」を、「原状回復ガイドライン」と称する。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について(国土交通省Webサイト)

ア 誤り。

経過年数による減価割合については、従前より「法人税法」(昭和40年3月31日法律第34号)及び「法人税法施行令」(昭和40年3月31日政令第97号)における減価償却資産の考え方を採用するとともに、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年3月31日大蔵省令第15号) における経過年数による減価割合を参考にして、償却年数経過後の残存価値は10%となるようにして賃借人の負担を決定してきた。

しかしながら、平成19年の税制改正によって残存価値が廃止され、耐用年数経過時に残存簿価1円まで償却できるようになったことを踏まえ、例えば、カーペットの場合、償却年数は、6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を描いて経過年数により賃借人の負担を決定する。よって、年数が経つほど賃借人の負担割合は減少することとなる。
(原状回復ガイドライン1章Ⅱ3(2)①)

したがって、償却年数経過後の残存価値が10%となるようにして算定するのではない。

イ 誤り。

経過年数の考え方を導入した場合、新築物件の賃貸借契約ではない場合には、実務上の問題が生じる。
(略)
そこで本ガイドラインでは、経過年数のグラフを、入居年数で代替する方式を採用することとした。この場合、入居時点の設備等の状況は、必ずしも価値100%のものばかりではないので、その状況に合わせて経過年数のグラフを下方にシフトさせて使用することとする。
入居時点の状態でグラフの出発点をどこにするかは、契約当事者が確認のうえ、予め協議して決定することが適当である。例えば、入居直前に設備等の交換を行った場合には、グラフは価値100%が出発点となるが、そうでない場合には、当該賃貸住宅の建築後経過年数や個々の損耗等を勘案して1円を下限に適宜グラフを決定することとなる。
(原状回復ガイドライン1章Ⅱ3(2)②)

ウ 誤り。

賃借人の原状回復義務とは何か

本ガイドラインの考え方

表1 建物価値の減少の考え方

①―A 建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)
①―B 賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
② 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等

建物の損耗等について

事例の区分
事例のうち建物価値の減少ととらえられるものを、
A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの
B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるもの
(明らかに通常の使用等による結果とはいえないもの)
A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの
の3つにブレークダウンして区分した。
その上で、建物価値の減少の区分としてはAに該当するものの、建物価値を増大させる要素が含まれているものを、A(+G)に区分した

賃借人の負担について

賃借人の負担対象事象

A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるものは、表1①-Aの「経年変化」か、表1①-Bの「通常損耗」であり、これらは賃貸借契約の性質上、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものである。したがって、賃借人はこれらを修繕等する義務を負わず、この場合の費用は賃貸人が負担することとなる。

A(+G):賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものについては、上記のように、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものであり、賃借人は修繕等をする義務を負わないのであるから、まして建物価値を増大させるような修繕等(例えば、古くなった設備等を最新のものに取り替えるとか、居室をあたかも新築のような状態にするためにクリーニングを実施する等、Aに区分されるような建物価値の減少を補ってなお余りあるような修繕等)をする義務を負うことはない。したがって、この場合の費用についても賃貸人が負担することとなる。

B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるものは、表1②の「故意・過失、善管注意義務違反等による損耗等」を含むこともあり、もはや通常の使用により生ずる損耗とはいえない。したがって、賃借人には原状回復義務が発生し、賃借人が負担すべき費用の検討が必要になる。

A(+B):賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗が発生・拡大したと考えられるものは、損耗の拡大について、賃借人に善管注意義務違反等があると考えられる。したがって、賃借人には原状回復義務が発生し、賃借人が負担すべき費用の検討が必要になる

経過年数の考え方の導入

上記のように、事例区分BやA(+B)の場合には、賃借人に原状回復義務が発生し、賃借人が負担する費用の検討が必要になるが、この場合に修繕等の費用の全額を賃借人が当然に負担することにはならないと考えられる。

(原状回復ガイドライン1章Ⅱより筆者が抜粋して作成)

したがって、借主が原状回復費用を全額負担するわけではない。

エ 誤り。

経過年数を超えた設備等を含む賃借物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく、そのため、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得ることを賃借人は留意する必要がある。

具体的には、経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となることがあるものである。(原状回復ガイドライン1章Ⅱ3(2)①)

したがって、借主は新品に交換する費用を負担するわけではない。

本問において、正しいものはなく、正解は1となる。