今回のテーマは、民法の「抵当権」である。

それではさっそく、「管理業務主任者試験」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。

令和4年度 管理業務主任者試験問題【問4】

【問 4 】 甲土地を所有するAが、B銀行から融資を受けるに当たり、甲土地にBのために抵当権を設定した場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、最も適切なものはどれか。ただし、甲土地には、Bの抵当権以外の担保権は設定されていないものとする。

1  抵当権設定当時、甲土地上にA所有の建物があった場合には、当該抵当権の効力は当該建物にも及ぶ。
2  抵当権設定当時、甲土地が更地であった場合、当該抵当権の実行手続により買い受けたCから甲土地の明渡しが求められたときには、Aは、その請求に応じなければならない。
3  抵当権の設定行為において別段の合意がない限り、被担保債権の利息は当該抵当権によって担保されない。
4  Bの抵当権は、Aに対しては、被担保債権が存在していても、時効によって消滅する。

令和4年度 管理業務主任者試験問題 令和4年(2022年)12月4日
正解:2

それでは、各肢を検討していこう。なお、法令等は、令和4年4月1日現在で施行されているものによるものとする。

1 誤り

わが国では、土地と建物は別個独立の財産として扱われるので、土地と建物を目的物とする抵当権はそれぞれ別個の権利となる。つまり、土地抵当権と建物抵当権というように、抵当権の個数としては2個と数えられる。土地抵当権の効力が建物に及ばないことを定める民法370条は、これを前提とした規定である。

(抵当権の効力の及ぶ範囲)
第三百七十条 抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。(略)

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2 正しい。

建物賃借人が自己の賃借権を抵当権者に対抗することができない場合であっても、建物の競売において買受人が買い受けたときから6か月を経過するまでは、建物賃借人は、買受人に建物を引き渡さなくてもよい。(民法395条1項柱書)建物賃借人は、最終的には建物から退去しなければならないが、次の居住場所等を見つけ、引っ越しの時間を必要とする。このことから、買受人が建物所有権を取得した時から6か月間だけの引渡猶予が認められる。ただし、土地の賃借権には適用されない。土地の賃借人は、賃借した土地に相当の資本を投下して利用していると思われる。6か月程度の引渡猶予期間を認めても大した保護にはならない。

したがって、甲土地が更地の場合には、Aは明け渡しに応じなければならない。

(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
第三百九十五条 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者

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3 誤り。

抵当権者が債務者に対して有する債権は、元本債権のほか、利息契約に基づく利息債権、債務不履行に基づく損害賠償金(遅延損害金)債権なども想定している。民法375条によると、これら元本債権以外の債権について、抵当権者は、満期となった最後の2年分についてのみ優先弁済を受けることができるとされている。こうして、不動産の残余価値について予測可能性を高め、後順位抵当権者が不測の損害を被ることを回避している。

したがって、別段の合意の有無にかかわらず、利息が抵当権によって担保されないわけではない。

(抵当権の被担保債権の範囲)
第三百七十五条 抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
(略)
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4 誤り。

抵当権も「所有権以外の財産権」(民法166条)であるので、消滅時効にかかるようにみえる。しかし、抵当権は、債権の担保を目的とする権利である。債務の弁済をしない債務者や自分の意志で抵当権を設定した物上保証人が被担保債権が存在するにもかかわらず、抵当権の時効消滅を主張することは信義則に反する。そこで、民法396条は、債務者及び抵当権設定者(物上保証人)に対しては、その被担保債権が消滅時効にかからない限り、抵当権のみが時効消滅することはない旨を規定している。

(抵当権の消滅時効)
第三百九十六条 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。

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(参考)C-Book 民法II〈物権〉 改訂新版 (東京リーガルマインド)、新プリメール民法2 物権・担保物権法〔第2版〕 今村与一ほか著(法律文化社)