今回のテーマは、民法の「時効」である。
それではさっそく、「管理業務主任者試験」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
令和4年度 管理業務主任者試験問題【問2】
【問 2 】 時効に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、最も不適切なものはどれか。
1 消滅時効が完成し、時効が援用されて権利が消滅すると、その権利は最初からなかったものとされる。
2 時効の利益は、時効完成後には放棄することができない。
3 債権者が、債務者に対して金銭の支払を求めて訴えを提起した場合に、確定判決によって権利が確定したときは、時効が更新される。
4 地上権や地役権についても、時効による権利の取得が認められる。
令和4年度 管理業務主任者試験問題 令和4年(2022年)12月4日
正解:2
それでは、各肢を検討していこう。なお、法令等は、令和4年4月1日現在で施行されているものによるものとする。
1 正しい。
時効が完成すると、その効果は、起算点(時効期間の最初の時点)にさかのぼる(144条)
(時効の効力)
第百四十四条 時効の効力は、その起算日にさかのぼる。
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そして、消滅時効が完成するとその起算点から権利を有していなかったことになる。
時効の援用(145条)
時効によって利益を受ける者が時効の利益を受ける意思を表示することをいう。
(時効の援用)
第百四十五条 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
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したがって、消滅時効が完成し、時効が援用されて権利が消滅すると、その権利は最初からなかったものとされる。
2 誤り。
時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。(146条)
(時効の利益の放棄)
第百四十六条 時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
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しかし、時効完成後については、146条の反対解釈から放棄は有効である。完成前のような弊害を伴わない。
したがって、時効の利益は、時効完成後には放棄することができる。
3 正しい。
時効の更新とは
一定の事由がある場合に、それまで経過した時効期間が無意味になり、新たに時効の進行が開始するものをいう。
本肢では、一定の事由のうち、「裁判上の請求」を取り上げる。
裁判上の請求(147条1項1号)
裁判上の請求とは、訴えの提起のことである。
裁判上の請求は、権利者による権利の主張にほかならないので、完成猶予事由(147条1項1号)となる。→ 裁判上の請求が終了するまでの間、時効は完成しない。(147条1項柱書)
時効の完成猶予とは
一定の事由がある場合に、時効期間は進行し続けるものの、本来の時効の完成時期を過ぎても、一定期間が経過するまで時効の完成を猶予するものをいう。
しかし、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、更新事由となる。(147条2項)
なお、確定判決等によって権利が確定することなく(更新とならずに)裁判上の請求が終了した場合には、その終了の時から6か月を経過するまでの間は、時効の完成が猶予される。(147条1項柱書かっこ書)
(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
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4 正しい。
民法では、所有権の時効取得について定めた後、「所有権以外の財産権」も時効によって取得されるとする。(163条)
取得時効の対象となる権利
- 用益物権(地上権、永小作権、地役権)
- 不動産賃貸借
(所有権以外の財産権の取得時効)
第百六十三条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。
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したがって、地上権や地役権についても、時効による権利の取得が認められる。
なお、取得時効の対象となる地役権は、継続的に行使され、かつ、外見上認識することができるものに限られる。(283条)
(地役権の時効取得)
第二百八十三条 地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。
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(参考)C-Book 民法I〈総則〉 改訂新版 東京リーガルマインド