今回のテーマは、「民法における特別受益」である。

それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<基礎編>(2023年5月28日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。

ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<基礎編>(2023年5月28日実施)問題46

《問46》 民法における特別受益に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。

1) 被相続人の相続財産を相続人である子が相続する場合、被相続人が相続人でない孫に対して相続の開始前に贈与を行っていたときは、原則として、当該贈与は特別受益に該当する。
2) 共同相続人のなかに被相続人を被保険者とする生命保険の死亡保険金受取人がいる場合、原則として、当該死亡保険金は特別受益に該当する。
3) 共同相続人のなかに被相続人から居住用建物の贈与を受けた者がおり、相続開始の時において、受贈者の行為によって当該建物が滅失していた場合、当該建物は特別受益の持戻しの対象とはならない。
4) 婚姻期間が20年以上の夫婦において、夫が妻に対し、その居住用建物とその敷地を遺贈した場合、夫は、その遺贈について特別受益の持戻し免除の意思表示をしたものと推定される。

ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<基礎編>(2023年5月28日実施)

正解:4

それでは、各肢を検討していこう。
2023年5月実施の問題は、2022年10月1日現在施行されている法令等により出題されているが、正解及び解説は2023年4月1日現在施行されている法令等に基づいて執筆する。

1) 誤り。

特別受益とは、遺贈や相続人に対する一定の条件を満たす生前贈与のこと。

遺贈とは
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。(民法964条)

遺贈とは「遺言によって、財産の割合を指定して、特定の誰かに財産を引き継がせること」である。引き継ぐ相手に制限はなく、法定相続人(民法で定められた相続人)以外でも可能である。
(参考)相続会議のウエブサイト

特別受益にあたる生前贈与があった場合、この生前贈与額は、相続分算定に当たって相続財産の総額に算入される。この取り扱いを、「持戻し」と言う。

そして、遺贈は、その目的に関わりなく特別受益となるが、生前贈与は、「婚姻又は養子縁組のための贈与」と「生計の資本として贈与」が特別受益となる。

「婚姻又は養子縁組のための贈与」には、一般的には、婚姻や養子縁組の際の持参金や支度金が該当する。
一方、「生計の資本としての贈与」には、自宅建設資金、営業資金、土地や借地権の贈与などが該当する。

本肢は、生前贈与が特別受益に当たるかを判断するものであるが、上記のいずれかに該当する贈与とはなっておらず、特別受益には当たらないと判断される。

2) 誤り。

本肢の場合、受取人として指定された人が、保険契約に基づく権利として保険金請求権を取得するので、この保険金請求権は相続財産ではなく、遺産分割の対象とはならない。

したがって、特別受益には該当しない。

3) 誤り。

生前贈与時から相続開始時までの間に目的物が滅失や増減した場合でも、それが受贈者の行為による場合には、相続開始時に目的物があるものとして、特別受益を算定する

したがって、当該建物は特別受益の持戻しの対象となる。

この受贈者の行為による場合には、「過失」による場合も含むと考えられている。

なお、滅失が不可抗力によるときは、贈与は受けなかったものとして、相続分の算定を行うことになる。

4) 正しい。

婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について特別受益の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。(民法903条4項)

(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
(略)
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

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