今回のテーマは、「相続の単純承認と限定承認」である。
それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<基礎編>(2023年5月28日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<基礎編>(2023年5月28日実施)問45
《問45》 相続の単純承認と限定承認に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
1) 相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、相続の承認または放棄の意思表示をしないまま、相続財産である建物を契約期間1年で第三者に賃貸した場合、その相続人は単純承認したものとみなされる。
2) 限定承認をした場合、相続財産に譲渡所得の基因となる資産があるときは、被相続人がその財産を相続人に時価で譲渡したものとみなされるため、相続人が準確定申告をしなければならないことがある。
3) 限定承認は、共同相続人のうちに相続の放棄をした者がいる場合、その放棄者を含めた共同相続人の全員が共同して家庭裁判所にその旨の申述をしなければならない。
4) 限定承認の申述が受理された場合、限定承認者または相続財産管理人は、受理された日から所定の期間内に、すべての相続債権者および受遺者に対し、その債権の請求の申出をすべき旨を各別に催告しなければならない。
ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<基礎編>(2023年5月28日実施)
それでは、各肢を検討していこう。
2023年5月実施の問題は、2022年10月1日現在施行されている法令等により出題されているが、正解及び解説は2023年4月1日現在施行されている法令等に基づいて執筆する。
1 誤り。
熟慮期間が経過する前に、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされる。(民法921条1項本文)
ただし、保存行為及び短期賃貸借(同602条)をすることは除かれる。(同921条1項ただし書)
そして、建物の賃貸借は3年である。(同602条3号)
したがって、相続財産である建物を契約期間1年で第三者に賃貸した場合、その相続人は単純承認したものとみなされない。
2 正しい。
譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう。
譲渡所得の対象となる資産には、土地、借地権、建物、株式等が含まれる。
資産の「譲渡」とは、有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為をいう。通常の売買のほか、交換、競売、公売、代物弁済、財産分与、収用、法人に対する現物出資なども含まれる。
また、限定承認による相続などがあった場合も資産の譲渡があったものとされる。
したがって、相続人が準確定申告をしなければならないことがある。
(参考)譲渡所得の対象となる資産と課税方法(国税庁ホームページ)
3 誤り。
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。(民法923条)
ただし、相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされる(同939条)ので、放棄者を除いた残りの共同相続人の全員で限定承認をすることができる。
4 誤り。
限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。(民法927条1項前段)
なお、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。(同927条3項)
また、この公告は、官報に掲載してする。(同927条4項)