今回のテーマは、「株式投資と財務分析」である。
それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2022年1月23日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2022年1月23日実施)【第2問】
《設 例》
不動産賃貸業を営むAさん(45歳)は、短期の売買は望まず、財務の安全性を重視して、長期的なスタンスで投資したいと思っている。具体的には、上場企業X社に興味があり、下記の財務データを参考にして、投資判断を行いたいと考えている。
そこで、Aさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。
※決算期:2024年3月31日(木)(配当の権利が確定する決算期末)
※上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。
《問54》 Mさんは、Aさんに対して、株式の内在価値(理論株価)について説明した。Mさんが説明した以下の文章の空欄①~④に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。
Ⅰ 「 配当割引モデルでは、株式の内在価値は将来受け取る配当の現在価値の総和として計算されます。ある企業(以下、「Y社」という)のROEを12.0%、予想EPSを120円、株主の期待( ① )率を8.0%、負債はないものとした場合において、Y社が来期以降のEPSの全額を配当すると仮定した場合、Y社の理論株価は( ② )円になります。これをゼロ成長モデルと呼びます」
Ⅱ 「配当金額が長期的に同じ率で成長をするという前提のもとで株式の内在価値を求める定率成長モデルという考え方もあります。来期以降、上記ⅠにおけるY社がEPSの4割を内部留保して再投資する場合(配当性向が6割の場合)、( ③ )率を期待成長率と仮定すれば、Y社の理論株価は( ④ )円になります。このケースにおいて、配当性向を上げると、( ③ )率は下がり、理論株価は低くなります」
ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2022年1月23日実施)改題・抜粋
ゼロ成長モデル
将来支払われる配当が、一定額で変化しないと仮定した場合の理論株価(株式の内在価値)は以下の算式で計算できる。また、投資家の要求する収益率のことを「期待利子率」という。①
ゼロ成長モデルによる理論株価=$\frac{1株当たり予想配当}{期待利子率}$
本問では、予想EPS(1株当たり当期純利益)を全額配当すると仮定する。
$\frac{120}{0.08}=1,500円$ ②
EPS(1株当たり当期純利益)=$\frac{当期純利益}{発行株式総数}$
サスティナブル成長率
内部留保と利益率から今後の成長率を予測する指標である。③
サスティナブル成長率=ROE×内部留保率
= ROE×(1-配当性向)
= 12.0% × (1ー60%) = 4.8%
定率成長モデル
将来支払われる配当が、定率で増加(成長)していくと仮定した場合の理論株価(株式の内在価値)は以下の算式で計算できる。また、配当の成長率を「期待成長率」という。
定率成長モデルによる理論株価=$\frac{1株当たり(予想)配当金額}{期待利子率-期待成長率}$
$\frac{120円×60%}{0.08-0.048}=2,250円$ ④
なお、本問では、配当性向が6割であるため、1株当たりの(予想)配当金額は、予想EPSの60%となる。
ROE(自己資本利益率)とは
自己資本を使ってどれだけ最終利益を上げているのかを見る指標。その会社の収益力を表す。
自己資本利益率(%)(ROE)=$\frac{当期純利益}{自己資本}$
配当性向とは
当期純利益に対する年間配当金の割合を示す。数値が高いほど、利益還元の度合いが高い。
なお、株主に還元せず、会社に留保する割合を内部留保率という。
配当性向(%)= $\frac{年間配当金}{当期純利益}×100$
内部留保率= 1-配当性向
《問55》 《設例》の〈X社の財務データ等〉に基づいて、①固定長期適合率と②インタレスト・カバレッジ・レシオを、それぞれ求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は表示単位の小数点以下第3位を四捨五入し、小数点以下第2位までを解答すること。
ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2022年1月23日実施)改題・抜粋
貸借対照表を用いた安全性分析
固定長期適合率(%)=$\frac{固定資産}{自己資本+固定負債}×100$
100%以下が望ましい。
「自己資本=株主資本+その他の包括利益累計額」で計算されるが、本問では、自己資本は純資産の部合計と同額となる。
X社の固定長期適合率(%)=$\frac{950,000百万円}{442,000百万円+635,000百万円}×100$
=88.2079
=88.21%(小数点以下第3位を四捨五入)①
インタレスト・カバレッジ・レシオ
会社の借入金等の利息の支払能力をみる指標である。数値が高いほど財政的に余裕があると判断される。
インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)=$\frac{事業利益}{金融費用}$
事業利益=営業利益+受取利息及び受取配当+有価証券利息+持分法による投資利益
金融費用=支払利息及び割引料+社債利息
X社のインタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)=$\frac{35,000百万円+300百万円+1,800百万円+4,500百万円}{7,500百万円}$
=5.5466
=5.55倍(小数点以下第3位を四捨五入) ②