今回のテーマは、「事業用資産の買換えの特例」である。

それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2020年9月13日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。

ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2020年9月13日実施)【第4問】

《設 例》

Aさん(65歳)は、15年前に父から相続により取得した貸駐車場用地(500㎡)を2022年10月に売却した。その売却資金と銀行借入金によって、2023年中に甲土地を取得し、甲土地の上に賃貸アパートを建築して、貸付事業を開始する予定である。土地の買換えにあたっては、「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の適用を受けるための所定の手続を行っている。
Aさんが購入する予定の甲土地の概要は、以下のとおりである。

(注)
・甲土地は400㎡の長方形の土地である。
・幅員15mの公道は、建築基準法第52条第9項の特定道路であり、特定道路から甲
土地までの延長距離は56mである。
・指定建蔽率および指定容積率とは、それぞれ都市計画において定められた数値で
ある。
・特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域ではない。
※上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

《問60》 「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」および「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」に関する以下の文章の空欄①~⑧に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。
〈特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例〉
Ⅰ 「 特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」(以下、「本特例」という)は、個人が事業の用に供している特定の地域内にある土地建物等(譲渡資産)を譲渡して、一定期間内に特定の地域内にある土地建物等の特定の資産(買換資産)を取得して事業の用に供したときは、所定の要件のもと、譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べることができる特例である。
譲渡資産および買換資産がいずれも土地である場合、買い換えた土地の面積が譲渡した土地の面積の( ① )倍を超えるときは、原則として、その超える部分について本特例の対象とならない。また、本特例のうち、いわゆる長期所有資産の買換えの場合、譲渡した土地の所有期間が譲渡した日の属する年の1月1日において
( ② )年を超えていなければならず、買い換えた土地の面積が( ③ )㎡以上でなければならない。
なお、本特例による課税の繰延割合は、原則として80%であるが、いわゆる長期所有資産の買換えで、譲渡資産が地域再生法に規定する集中地域以外の地域内に所在し、かつ、買換資産が東京都の特別区の存する区域または集中地域内に所在するときは、( ④ )%または75%となる。
〈小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例〉
Ⅱ Aさんが取得した甲土地(宅地)上に賃貸アパートを建築し、貸付事業を行う場合、将来のAさんの相続開始時、相続税の課税価格の計算上、原則として、当該宅地は( ⑤ )として評価することになり、賃貸アパートは貸家として評価することになる。また、Aさんが甲土地の取得や賃貸アパートの建築に銀行借入金を利用
した場合に、将来のAさんの相続開始時における当該借入金の残高は、相続税の課税価格の計算上、( ⑥ )の対象となる。
さらに、甲土地は、所定の要件を満たせば、貸付事業用宅地等として「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(以下、「本特例」という)の適用を受けることができる。仮に、甲土地の( ⑤ )としての評価額が4,000万円である場合に、貸付事業用宅地等として当該宅地のみに本特例の適用を受けたときは、相続税の課税価格に算入すべき当該宅地の価額は( ⑦ )万円となる。
なお、相続の開始前( ⑧ )年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等については、被相続人が相続開始前( ⑧ )年を超えて事業的規模で貸付事業を行っていた場合等を除き、本特例の適用対象とならない。

ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2020年9月13日実施) 【第4問】改題

正解 ①5 ②10 ③300 ④70 ⑤貸家建付地 ⑥債務控除 ⑦3,000 ⑧3

特定の事業用資産の買換え特例

  • 取得後1年以内に事業の用に供すること
  • 取得する資産が土地の場合、原則として譲渡した土地の面積の5倍以内であること。
  • 課税の繰延割合は原則として、80%であるが、東京都特別区などの割合は以下の通り。
譲渡資産買換資産繰延割合
東京都特別区集中地域以外の本店等移転90%
集中地域以外東京都特別区70%
東京都特別区以外の集中地域75%
東京都特別区への本店等移転60%

小規模宅地等の評価減の特例

小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例

相続開始の直前における宅地等の利用区分特例の対象となる宅地等の名称限度面積減額面積
事業用貸付事業以外の事業用特定事業用宅地等特定事業用等宅地等合計
400㎡
80%
貸付事業用特定同族会社事業用宅地等
貸付事業用宅地等200㎡50%
居住用特定居住用宅地等330㎡80%
限度面積と減額割合

減額される金額の計算方法

特定居住用宅地等である場合
宅地等の相続税評価額$×\frac{分母のうち330㎡までの部分}{その宅地の総面積}×80$%

特定事業用等宅地等である場合
宅地等の相続税評価額$×\frac{分母のうち400㎡までの部分}{その宅地の総面積}×80$%

貸付事業用宅地等である場合
宅地等の相続税評価額$×\frac{分母のうち200㎡までの部分}{その宅地の総面積}×50$%

⑦ 「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」では、貸付事業用宅地等について、200㎡までを50%減額できる。
4,000万円-(4,000万円×$\frac{200㎡}{400㎡}$×50%)=3,000万円


貸付事業用宅地等とは
相続開始の直前において、被相続人等の事業(貸付事業※)の用に供されていた宅地等(3年以内貸付宅地等を除く)で一定の要件のすべてに該当する被相続人の親族が相続または遺贈により取得したもの。
※不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業に限る。

3年以内貸付宅地等とは
相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等である。
ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等であっても、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち準事業以外のものをいう。)を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地等については、3年以内貸付宅等に該当しない。(特例の対象となる)

《問61》 甲土地上に準耐火建築物を建築する場合、次の①および②に答えなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は㎡表示とすること。なお、記載のない事項については考慮しないものとする。
① 建蔽率の上限となる建築面積はいくらか。
② 容積率の上限となる延べ面積はいくらか。なお、特定道路までの距離による容積率
制限の緩和を考慮すること。

ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2020年9月13日実施) 【第4問】改題

正解 ①360㎡ ②1,728㎡

建蔽率の上限となる建築面積

400㎡×(80% + 10%) = 360㎡
※甲土地は、準防火地域で、準耐火建築物を建築する場合に当たり、10%加算する。

建蔽率の緩和

  1. 防火地域内に耐火建築物を建築する場合・・・10%加算
  2. 準防火地域に耐火建築物または準耐火建築物を建築する場合・・・10%加算
  3. 特定行政庁の指定した角地・・・10%加算
  4. 1または2の基準を満たし、かつ3にも該当する場合・・・20%加算
  5. 指定建蔽率80%の地域で、1の基準を満たす場合・・・100%建築可

容積率の上限となる延べ面積

$W_{1}=\frac{(12-前面道路の幅員)×(70-特定道路までの距離)}{70}$
$=\frac{(12-6)×(70-56)}{70}=$1.2m

特定道路による容積率制限の緩和

建築物の敷地が幅員15m以上の道路(特定道路)から70m以内にあり、建築物の敷地の前面道路の幅員が6m以上12m未満である場合、特定道路までの距離に応じて求められる数値を前面道路の幅員に加算し、容積率の最高限度を計算することができる。

道路幅員による容積率の最高限度=(前面道路の幅員+$W_{1}$)×法定乗数
$W_{1}=\frac{(12-前面道路の幅員)×(70-特定道路までの距離)}{70}$

$(6m+1.2m)×\frac{6}{10}=$432%<500%(指定容積率) ∴432%
400㎡×432%=1,728㎡

敷地が接する前面道路(2以上の道路に面するときは幅員が最も大きいもの)の幅員が12m未満である場合には、用途地域ごとに定められている容積率(指定容積率)と、以下の計算で求められる数値の少ない方(制限の厳しい方)の容積率を用いる。

住居系用途地域
前面道路の幅員×10分の4

住居系用途地域以外
前面道路の幅員×10分の6

本問では、前面道路の幅員に$W_{1}$の式で求めた1.2mを加算する。

《問62》 Aさんが、下記の〈条件〉で事業用資産である土地を譲渡し、甲土地を取得して、「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の適用を受けた場合、次の①~③に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は100円未満を切り捨てて円単位とすること。
なお、譲渡所得の金額の計算上、取得費については概算取得費を用いることとし、課税の繰延割合は80%であるものとする。また、本問の譲渡所得以外の所得や所得控除等は考慮しないものとする。
① 課税長期譲渡所得金額はいくらか。
② 課税長期譲渡所得金額に係る所得税および復興特別所得税の合計額はいくらか。
③ 課税長期譲渡所得金額に係る住民税額はいくらか。

ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2020年9月13日実施) 【第4問】改題

正解 ①21,900,000円 ②3,353,900円 ③1,095,000円

特例の計算(繰延割合が80%の場合)

譲渡資産の価格より買換資産の価格が高い場合
①収入金額=譲渡資産の譲渡価額ー譲渡資産の取得価額×80%
(=譲渡資産の譲渡価額×20%)
②取得費+譲渡費用
=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×$\frac{①収入金額}{譲渡資産の譲渡価額}$
③譲渡益=①ー②
④税額=③譲渡益×税率

譲渡資産の価格より買換資産の価格が低い場合
①収入金額=譲渡資産の譲渡価額ー買換資産の取得価額×80%
②取得費+譲渡費用
=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×$\frac{①収入金額}{譲渡資産の譲渡価額}$
③譲渡益=①ー②
④税額=③譲渡益×税率

課税長期譲渡所得金額
本問では、譲渡資産の価格:8,000万円で、買換資産の価格;7,000万円で、
譲渡資産の価格より買換資産の価格が低い場合」に当たり、
①収入金額=8,000万円ー7,000万円×80%=2,400万円
②取得費+譲渡費用
=(8,000万円×5%+300万円)×$\frac{2,400万円}{8,000万円}=210万円$
※取得費は不明のため、概算取得費(譲渡価額×5%)を適用する。
③譲渡益=2,400万円ー210万=21,900,000円

課税長期譲渡所得金額に係る所得税および復興特別所得税の合計額
21,900,000円×15.315%=3,353,985円 → 3,353,900円

課税長期譲渡所得金額に係る住民税額
21,900,000円×5%=1,095,000円

長期譲渡所得の税額=課税長期譲渡所得金額×20%(20.315%)
所得税15%(15.315%)、住民税5%

( )は復興特別所得税込みの税率